前回は種板の復元について触れた。最近は種板の調査も進み種板自体の復元に着手している。既に数枚復元してみたがなかなかの出来映えに満足している。
風呂(幻灯機)に種板を差し入れ映写。闇に写る浮世絵風の絵と言うのは実に神秘的であった。ここまで来るのには大変時間を要し、再現出来た時の感動は例えようの無い物だったが、この感動は自分達が成し遂げた事についての物だけではないような気がする。
純粋に映し出された種板の絵に魅了されてしまった。
この感動をあたえてくれたのは、私達が産まれるずっとずっと昔に絵を描いた「写し絵絵師」なのではないか。
小さい硝子板に妥協なく描いたからこその感動だ。言い方は臭くなるが、はるか昔から時を経て、作者がいなくなった今も、その絵はまるで生き物のように見た人に働きかけ魅了させてしまう。この素晴らしい絵を取ってみても写し絵は普通の幻灯(?)とはちがうのではないか。
写し絵の絵師、その名は「都鏡」。私が復元した種板の絵を描いた方だ。この人の絵は、写し絵で使われる種板絵の中でも絶品と言われている。他にも絵師はいたらしいが、都鏡ほどは上手くなかったらしい。このような絵に触れる事が出来た事、今まで保存してきた方に対し本当に感謝の一言である。
現在都鏡が描いた絵はわずかしか残っていない。もしかすると何処かにまだ眠っている物もあるかもしれないが、今は戦争や震災などで殆ど失われてしまった。とても残念な事だが無い物に思いを寄せても片思いのまま進展はないので今ではあきらめたが、初めて都鏡の絵を見た時には数日の間都鏡が描いた絵の夢を見るほどだった。
自分でも病気だと思うほどだったが、この素晴らし絵に動きを加え、物語を演じる事が写し絵の本来の姿なので、気を取り直し早く筋の通った物を完成させなければならないと強く思った。
人に何かを伝えるには演技もこれからは問題となってくる。復元作業については、私も含め他の団員それぞれが仕事を持っている都合上一人、時々二人で行っているが、風呂の操作となるとそうもいかない。風呂は5~6台使いそれに対応できる人数が必要となってくる。今の団員数は10名ほどだが、この中には相談役と技師、語り手が含まれる為、風呂を動かす事のできる実行人数は5名ほどである。
今までは現在ある機械を使ってきたので人数には困らなかったが、写し絵の完全な実演となると逆に人数が少ないように感じてしまう。一人が欠けても実演出来なくなってしまうし、それぞれが同じ技量をもたないと物語がぎくしゃくしてしまう。
色々乗り越えなければならない課題はあるが、絵にまけないような演技ができるよう頑張りたい。