タイムトラベルは、タオルの手触りから

わが家のタオル事情は、最近ちょっとした「逆行」を始めています。 といっても、特別なこだわりを持ってアンティークを収集しているわけではありません。理由はもっと切実で、単純なもの。日々使う消耗品だからこそ、「安くて、なおかつ質が良いもの」を求めた結果、ネット上のフリーマーケット――誰かの家の押し入れと自分の家が直結しているような、あの便利な市場――で、出番を待っていた古い未使用品を補充するようになったのです。

これが、なかなか馬鹿にできません。 現行の新品をショップで買うよりもずっと手頃なのに、届く品物はどれも驚くほどしっかりしている。そんな実利優先の買い物の中で、私は時折、不思議なタイムトラベルを経験することになります。

「小学生の私」と再会する瞬間

届いたタオルの束を一つひとつ解いていくと、時々、端の方に小さく年号が刺繍されていたり、プリントされていたりするものがあります。 「昭和六十何年」 あるいは、平成の、それもごく初期の数字。 それを見た瞬間、頭の中でカチリと音がして、記憶のピントが合います。あぁ、これは私がちょうど小学生だった頃だ、と。

面白いのは、その「当時のおまけ」や「贈答品」として眠っていたタオルが、現代の私に教えてくれる事実です。 最近の、特に景気があまり良くない時期に配られたり売られたりしているタオルは、どこか生地が薄く、頼りなさを感じることがあります。コストカットの波が、タオルの厚みにまで押し寄せているのでしょうか。

ところが、数十年前にどこかの企業が配ったはずのそのタオルは、綿の密度がぎゅっと詰まっていて、重みがある。数回洗ったくらいではへたらない、道具としての「矜持」のようなものすら感じます。 「昔のほうが、当たり前のように物が良かった」 節約のために買ったはずのタオルが、そんな皮肉な、しかし豊かな事実を突きつけてくるのです。

進化の裏側で、こぼれ落ちたもの

「古いものは劣っていて、新しいものは優れている」 私たちは、文明の進歩を疑わずに生きています。けれど、タオルの厚み一つとっても分かるように、実際には「過去にできていたことが、現代ではできなくなっている」という逆転現象が、世の中にはあふれているのかもしれません。

その最たる例が、ピラミッドでしょう。 エジプトの砂漠にそびえ立つあの巨石の山。現代の最新鋭のクレーンやコンピューターを駆使しても、当時の人たちがどうやってあそこまでの精度で石を切り出し、積み上げたのか、完全な正解はいまだに分かっていません。 技術は進歩したはずなのに、数千年前の工法を再現できない。それは人類にとっての大きな謎であり、ある種の「敗北」のようでもあり、そして何より、たまらなく魅力的なロマンでもあります。

実は、私が関わっている「現代影絵プロジェクト」のルーツである「江戸写し絵」の世界にも、これと同じ種類のミステリーが息づいています。

江戸の絵師が隠した「色のレシピ」

江戸写し絵で使われる「種板(たねいた)」という、ガラスに描かれた絵。これを木製の幻燈機に入れ、光を透かしてスクリーンに投影するのですが、この種板に塗られた「塗料」が、実は現代の私たちを悩ませる大きな謎の一つなのです。

もちろん、現代の科学をもってすれば、成分の分析は可能です。どんな鉱物や植物が使われているのか、ある程度は解明できます。 しかし、「それなら同じものを作ってみよう」と試みても、当時のあの輝き、あの透明感、そして強い熱を浴びても剥がれ落ちない強靭さを、完璧に再現することは驚くほど難しいのです。

江戸時代の絵師たちは、今のようにチューブに入った便利な絵具を持っていませんでした。自然界にあるものを自ら調合し、それこそ気の遠くなるような手間と時間をかけて、独自のレシピを編み出していたはずです。 その配合の妙、あるいは筆の走らせ方。それらは、ある時期を境に歴史の表舞台からふっと姿を消し、現代の私たちには「正体の分からない美しさ」だけが残されました。

現代の便利な技術では、どうしても追いつけない江戸の色彩。 それは、安くて丈夫な「昔のタオル」が持っていた実直な質感が、今の効率重視の社会では再現しにくいのと、どこか似ているような気がしてなりません。

「分からない」を楽しむということ

古いものに惹かれるのは、単なる懐古趣味ではない。私はそう確信しています。 そこには、今の私たちが効率やスピードと引き換えに置き忘れてきてしまった「時間や手間の魔法」がかかっているのです。

ネット市場で手に入れたタオルの厚みに驚き、江戸の種板に込められた謎の塗料に想いを馳せる。 「どうしてこんなに凄いんだろう?」 「どうやってこれを作ったんだろう?」 そんな風に、過去の人たちが残した仕事に敬意を払い、首を傾げる時間は、とても贅沢でクリエイティブなものだと思いませんか。

私たちのプロジェクトが追いかけているのは、単なる「古い芸能」ではありません。 かつての人たちが当たり前のように持ち、そしていつの間にか失われてしまった「驚き」や「知恵」を、現代の光でもう一度照らし出そうとする試みです。

皆さんの身の回りにも、ふとした拍子に「昔のほうがしっかりしていたな」と感じるものはありませんか? あるいは、どうやってできているのか不思議でたまらない、古い道具はありませんか?

もしそんなものを見つけたら、ぜひじっくりと眺めてみてください。 そこにはきっと、今の私たちがもっと楽しく、もっと豊かに生きるための、小さなヒントが隠されているはずですから。

さて、次に私の元に届く古いタオルは、どんな時代の空気を運んできてくれるでしょうか。 そして、その手触りから、また新しい「江戸の謎」への扉が開くのを、私はひっそりと楽しみにしています。


このブログを読んで、少しでも写し絵と、創作の奥深さに興味を持っていただけたら嬉しいです。ぜひ、私たちの活動や公演(現在お休み中)にも注目してください。

現代影絵プロジェクトのウェブサイトはこちら: https://utsushie.org/

また次回の「写し絵の話しあれこれ」でお会いしましょう!