デジタル時代の「トレース」と「写し絵」—アナログ表現の価値と創作の倫理

皆さん、こんにちは!「現代影絵プロジェクト」のブログへようこそ。

最近、ニュースやSNSを見ていると、「トレース疑惑」や「AIアートの是非」といった、「創作の倫理」に関する話題が尽きませんよね。誰かが作ったものを「写す」という行為が、デジタル時代になってこんなにも難しくなるとは、昔の人は思わなかったでしょう。

私たち「写し絵プロジェクト」にとって、「写す」という行為は、その文化の根幹に関わる、とても大切なテーマです。今日は、そんな現代のモヤモヤを、写し絵の歴史と私たちの活動から、ちょっと覗き込んでみたいと思います。


「写し絵」が持っていた「写す」の意味

まず、私たちの活動のベースにある「写し絵」(江戸時代に流行した、スクリーンと種板を使った移動式の幻灯機)が生まれた頃の話を少し。

写し絵に使われる「種板(たねいた)」というガラスの絵は、もともと師匠から弟子へと技術と一緒に受け継がれていくものでした。当時は今のような著作権の概念は緩やかで、むしろ「優れた図案を真似る、写し取る」ことは、技術を磨き、文化を継承するための「学び」であり、「敬意」を示す行為でした。

つまり、古典的な「写し」は、「模倣」というよりは「継承」。先人の知恵と技術を自分のものにするための、とても重要なプロセスだったわけです。暗闇のスクリーンに光を当て、動かないはずの絵をユーモラスに動かす、その不思議な技術を伝え広めることが第一だったんですね。

写真の構図を写すのは盗作? デジタル時代のグレーゾーン

では、現代に目を向けてみましょう。最近、プロのイラストレーターの方が、「写真の構図を真似ただけで盗作なのか?」という議論が巻き起こりました。

皆さんも、SNSで美しい風景やポーズの写真を見て、「これを絵にしたい」と思ったことがあるかもしれません。

写真の「構図」自体はアイデアなので、通常は著作権で保護されません。でも、その構図に加えて、「光の当たり方」「細部の表現」「特定のポーズの再現度」などが加わると、どうでしょう?元の写真の「表現」そのものを写し取ってしまい、「盗作(複製権や翻案権の侵害)」と見なされる可能性が高くなります。

問題の核心は、「インスピレーションを得た」「そのまま拝借した」の境界線が、デジタル技術によって極めて曖昧になってしまったことです。写真をトレース(なぞり書き)すれば、あっという間に高いクオリティのものが出来てしまいます。

これは、誰かの「表現」の上に、自分の労力をかけずに乗っかる行為。つまり、「学び」ではなく、クリエイターとして一番大切な「創造の責任」を放棄してしまうことになるのです。

現代影絵プロジェクトの創作哲学:復元と創造の明確な区別

ここで、私たち「現代影絵プロジェクト」が、古典的な写し絵と現代の創作にどう向き合っているかをご紹介させてください。

私たちは、古典の写し絵の図案や演出を、現代風に「アレンジしたりはしません」。

古典は、古典として徹底的に「忠実に復元」し、当時の感動を再現することに全力を注いでいます。これは、先人への深い敬意を示すと同時に、その文化遺産を正確に未来へ「写し伝える」という責任があるからです。

そして、私たちが現代の課題や新しい物語を表現したいときは、古典の元図案は使わず、「ゼロから新しい写し絵」を創作します。

私たちが古典から受け継いでいるのは、「スクリーンに光と影を映し出し、動かないはずのキャラクターに命を吹き込む」という、写し絵独特の技術と哲学だけです。

つまり、私たちの活動は、

  1. 「復元(写し)」: 過去の表現を尊重し、忠実に未来へ引き継ぐ。
  2. 「創造(生み出す)」: 現代のテーマを、オリジナルの表現で作り出す。
  3. 写し絵の持ち主様への敬意」:提供して頂いた絵柄を大切に扱う。

という、この三つの領域を明確に分けているんです。これは、まさに現代における「模倣」と「創造」に対する、私たちの答えであり、譲れない創作の倫理観なのです。

AI時代に輝く「人の手」の価値

今やAIは、画像生成AIを使えば、一瞬で様々なタッチの絵を、それこそ「トレース疑惑」なんて気にしなくてもいいレベルで生み出します。デジタル技術は「写す」行為のスピードと正確さを極限まで高めました。

そんな時代だからこそ、私たち現代影絵が大切にしたいのは、「人の手による、アナログな表現の温もり」です。

古典を復元する際の、ガラス板に細筆で色を塗り、光を通すか通さないかを計算する緻密な手作業。新しい写し絵を創作する際の、絵の微かなタッチや、スクリーンに映る光と影のわずかな揺らぎ。

完璧すぎるAIアートでは表現できない、人の手による「不完全さ」や「ゆらぎ」こそが、観る人の心に深く響くのだと信じています。

最後に

いかがでしたか?「写す」という行為一つをとっても、時代によってこれほど意味合いが変わるものなんですね。

現代影絵プロジェクトは、「古典への敬意と忠実な復元」と、「現代への問いかけとゼロからの創造」という、二つの活動を両立させることで、このAI時代にも、人の手で光と影を生み出すアナログ表現の価値を守り、伝えていきたいと思っています。

あなたにとって、「写す」とは何でしょうか?そして、「創造」とは?

このブログを読んで、少しでも写し絵と、創作の奥深さに興味を持っていただけたら嬉しいです。ぜひ、私たちの活動や公演(現在お休み中)にも注目してくださいね!

現代影絵プロジェクトのウェブサイトはこちら: https://utsushie.org/

また次回の「写し絵の話しあれこれ」でお会いしましょう!